理事長あいさつ

(公財) 岡山県臓器バンク
理事長
荒木 元朗

このたび、公益財団法人岡山県臓器バンクの理事長を拝命いたしました岡山大学病院腎泌尿器科の荒木元朗です。これまで当バンクの活動を力強く牽引してこられた田中信一郎前理事長の多大なるご尽力に深く感謝と敬意を表するとともに、長年にわたり築かれてきた諸先輩方の想いを受け継ぎ、臓器移植医療の更なる発展に尽力してまいります。関係の皆さまにおかれましては、今後とも変わらぬご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
臓器提供とは、何らかの理由で生命を終えた方が、自らの臓器を他の患者の命を救うために託す、「いのちのリレー」です。心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・角膜など、移植により再び健康を取り戻すことが可能となる臓器は多く、現代の医療の恩恵を受けて多くの方が第二の人生を歩んでいます。移植を受けた患者の皆さんは、日々ドナーに深く感謝しながらその命を大切に生きておられます。
しかしながら、日本では臓器提供者(ドナー)の数が依然として少なく、臓器移植を必要とする患者さんが長期間待機を強いられている深刻な状況が続いています。2023年、日本全国で脳死・心停止後を合わせて150件の臓器提供があり、腎臓移植を受けた患者は248名にのぼりました。一方、生体腎移植は1,753件と、腎移植全体の88%を占めており、依然として死後の臓器提供が不足している実情が浮き彫りとなっています。
私の担当する腎移植は、医療費の観点からも非常に意義のある治療法です。透析を受ける慢性腎不全患者は国内に約35万人、年間新規導入患者も4万人を超えています。透析には年間約500万円の医療費が必要とされますが、腎移植によって約70%の削減が見込まれます。1例の腎移植により、生涯で約1億円近い医療費の削減につながるとも言われています。日本の国家財政が逼迫する中、臓器移植はまさに「命を救い、医療を支える」重要な柱なのです。
こうした背景から、臓器提供を推進するためには、国民一人ひとりの理解と意思表示が欠かせません。日本では、臓器提供の意思を運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証の裏面などに記載できる制度が整備されていますが、実際の記入率はまだ低いのが現状です。臓器提供について、家族と自然に話し合える社会的雰囲気を醸成し、学校教育や地域啓発、メディアなどを通じて継続的な情報提供を行っていくことが重要です。
また、臓器提供は「看取り」のひとつの選択肢でもあります。救命救急の現場では、患者さんとそのご家族が最期の時間を尊厳をもって過ごせるように寄り添う姿勢が重視されています。臓器提供がその選択肢の一つであることを、医療者だけでなく地域社会全体で共有していくことが求められます。
岡山県臓器バンクでは、こうした命の重みと、提供・移植に関わるすべての方々の想いを大切にしながら、県民の皆様の価値観を尊重し、対話を通じて理解と協力の輪を広げていきたいと考えています。臓器移植医療の未来を支えるため、引き続き皆様と手を携えて歩んでまいります。
(臓器バンクだより第35号
(令和7年9月))